嫌な予感は大概当たる 慧一の水
前回の死にぞこないの話の続き・・・
急性アルコール中毒らしきものを経験した。
その後はそこまで騒ぎを起こさず平穏無事な生活を送っていた。
この1年だけは、そこそこ真面目に学校に行っていた気がする。
寮を出た3年間は殆ど行っていないけどね。
紙に名前を書き、友達に渡し、それを出せば出席表と同じ扱いになる。
先生は気づいているだろうが、論文だけ出せば卒業できる学校じゃったんじゃろうの。
実際俺はすんなり卒業出来た。
と卒業までの話はまた機会があれば。
平穏無事に過ごした1か月後、それは突然起こった。
その日学校に行く前に一人の男が遊びに来ていた。
同じ寮仲間の大森という鳥取出身の酒屋の息子。
やつとは中々に気が合い、しょっちゅう俺の部屋に遊びに来ていた。
「あ~どがいすっか。夕方から・・・・」
と鳥取なまりで俺に話しかけてくる。
「あの台は絶対に逃せんど」
って感じで夕方前から行くパチンコの話をしていた。
「や~れそろそろ行くか!」と俺。
二人煙草をもみ消し、そのままゴミ箱へ。
話は尽きずその後もパチンコの話をしながら向かう。
「あの台が狙えめぞ」
「俺はあっちがええと思うで3回は固い」
「がいなこと言うな東は!ははは(笑)」
なんて話ながら学校に到着。
いつもの授業が始まる。
なんの変哲もない、つまらない授業。
大学に行くつもりがなかった俺にとって意味がない・・・。
そんな、つまらない時間を過ごして、1時間過ぎた頃遠くでサイレンが聞こえてきた。
何気に隣のヤツに発した言葉・・・。
「あれ俺の家じゃったりして」
「あほか、そりゃないよ」
「じゃいの」
それからまもなくドアを開ける音。
ガラガラガラ・・・
「この中に東君っていますか?!」
「はい俺ですけど・・・」
「家が火事よ!すぐに戻って!」
「マジか!!!!!!!やっぱり😭」
そこから猛ダッシュ。
約300メートル超ある距離を5秒で帰りながら、こんなことを考えていた。
「なんじゃろあの感覚、まじで火事じゃん。なんで当たるんや!!!!」
焼け跡見た俺は・・・
「終わった・・・」
2階の俺の部屋と1階の部屋がごっそり焼け焦げて無くなっていた。
寮に残っていた人たちが火を消そうとしたけど間に合わなかったらしい。
「ありがとう・・・・。」
魂の無い言葉で伝えた気がする。
伝えた後、必至に一つずつ確認しながら探す俺。
あれやこれや、買ったばかりのお気に入りのレコード。
大のお気に入りの服、靴、そして一番最初に探した歌詞を書いたノート。
これには中学から書き溜めてきた歌詞と曲のコードが書かれていた。
消防士は放心状態の俺に、後日消防署に来るように言ってくれたが、ほとんど耳に入ってこなかった。
その日、別の部屋に泊まらせてもらい、翌日から一時的に広島に戻った。
これまた悪夢なのか、帰ったその晩、道路を挟んだ綿工場が火事になった。
熱波がこっち側まで届く。めちゃくちゃ熱い・・・。
あの人熱くないのかな・・・。
激しく燃え盛る中、工場の奥さんが座り込んで泣き叫んでいた。
こんなめぐり合わせてってあるんだな・・・とボーっと眺めていた気がする。
1週間が過ぎ、寮を追い出されるのかと思っていたがそうでもなく、1階の部屋に移動することとなった。火事となった元のゲロ部屋は綺麗にリフォームされたがそこに戻ることは無かった。
そして消防署へ出向いた。
結論から言うと皆さんもうお分かりですね。
そう・・・
俺の燃えカスなのか、大森の燃えカスなのか、そんなことはどっちでもよかった。
ただ灰皿のタバコはゴミ箱に捨てちゃダメなんだと再認識。
「吸ってもいいから、せめて水に浸けて捨てないと・・・」
※本来吸っちゃダメなんですけどね(笑)
「はい。次から気を付けます。」
「あ、それと保険は大丈夫だったかい?」
「あ、お蔭様で・・・全額返ってきました。」
「そりゃ良かった。もう来ちゃだめだよ。」
「来ないですよ・・・来るわけないじゃないですか。」
火事は精神的にきついな・・・なんて思いながら消防署を後にした。
自転車にまたがりペダル漕ぎだすと、火事を起こしたことなど、どこ吹く風。
既に頭の中は、どの台を打つか考えながらパチンコファイアーへと向かっていた。
「見とけよ!取り返してやる!」
それから18年後、再び消防署へ出向くことになるとは、この時の俺は知る由もなかった。
「調書慣れてますね・・・」
「2回目ですから。ははは(笑)・・・・。笑えない。」